【中編】外国人技能実習生の入国後3ヶ月で日本語研修を行い、自発性を引き出す。


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Zuittでは、外国人技能実習生共同受入事業を推進する、イエローウイング協同組合様からの依頼で、北海道紋別郡遠軽町で水産物の加工を営む、だいいち様に対し、だいいち様で働くフィリピン人技能実習生に向けての日本語研修を提供しました。

イエローウイング協同組合の門洸司様、だいいちの小林美知様、Zuitt代表加藤に日本語研修の重要性や効果などを伺いました。

(インタビュー・大橋博之)


ゆっくり喋らなくとも話が通じ、仕事が円滑に進む

──研修後、何か変化はありましたか?

小林:私生活の面では、よく違う国の子たちと交流を取るようになりました。寮のお互いの部屋に遊びに行って、お酒を飲んだり、日本語で話したり。そういう交流が増えて、すごくいい感じと思っています。私は自分の国の子たちだけで集まるのではなく、全ての国の人と仲良くなって欲しいというのが願いでもあったので、異文化交流のような、違う国の子たちと交流していることは、私も嬉しくなります。日本語研修を受けていなければ、こうはならなかっただろうと思います。

──意図していなかったとのことですが、中国人、ベトナム人、インドネシア人、フィリピン人と多国籍になったのが良かったのかもしれないですね。

小林:そうですね。良かったと思います。違う国の子たちが加わることで、違う国の子たちの良さも分かります。4カ国それぞれでいいところもあって。私は、いろんな国の子がいて、すごく幸せな気持ちです。

──業務的にはどうですか?

小林:ゆっくり喋らなくとも指示が通じるようになり、仕事が円滑に進むようになりました。その点に関しても良かったと思っています。

──門さんは、研修後で変わったという印象はありましたか?

門:フィリピンから4人来ていただいたとき、自信を持っている子もいれば、不安そうな子もいて、バラつきがあったというのが、最初の印象でした。日本語研修を積み重ね、終わりぐらいまで来ると、不安そうだった姿は見えなくなってきました。不安がなくなり、自信が出てきたと見受けられました。具体的な業務や細かいところまでは見られていませんが、彼女らの行動を見て、ポジティブな影響が出てきたと思いました。

受け入れ初期段階で日本語研修を導入すると、問題は解決できる

──日本語研修を導入することの利点をどう、お考えでしょうか?

小林:日本語をよく理解して話すことができるようになれば、日本でもっといろんなことを学んでみようと、興味が湧くと思います。私たちはそうしたところもフォローしつつ、生活や実習を支えて行くことがベストだと思っています。その観点から、最初の段階での日本語研修は、とても大事だと思いました。日本語研修ができるのであれば、率先して導入していく方がいいと思っています。

──他社さんが導入しないとすれば、どういう理由なのでしょう。難しさは、どのようなことですか?

小林:時間もそうですし、本人の意欲をどこに持って行くかだと思います。本人の意欲をどうすれば、維持させられるか。仕事ではないところで、フォローしなければいけない。そこが難しいところです。

──モチベーションの維持ですね。

小林:そうですね。今まで、日本語研修を受けさせることはなかったので、戸惑いもありました。でも、カリキュラムを組んでさえしまえば、おのずと受けざるを得ない。私たちは受けさせてあげられる環境を作り、彼女たちが受けざるを得ない環境に整える。それをフォローするといったサイクルができれば、いいのかなと思います。

──導入されないのには、どういう理由があるからだと考えますか?

加藤:時間、学習意欲、あと、お金があると思います。時間は、小林さんがおっしゃる通り、受けざるを得ないように、時間を抑えてしまうことが有効です。今回でも非常に有効だったと思います。次に学習意欲、できることなら来日前に会話などの研修がベストです。最も学習意欲が高いからです。来日直後も比較的高いですが、生活に慣れてしまうと問題があります。小林さんがおっしゃる通り、通訳の人がいればそれでいいなど、悪い水準で停滞してしまいます。だから、タイミングです。なるべく早いうちに、または試験を受ける少し前からなど、タイミングが重要かと思います。

──お金の点はいかがでしょうか?

加藤:雇用主さんがご負担するにせよ、監理団体や登録支援機関さんがご負担するにせよ、費用対効果をあまり認識していただけていないかもしれないと思っています。

雇用主さんにとって、定着・活躍する外国人人材ほど総コストで見ると安くすむはずです。監理団体さんにしてもトラブルが爆発した場合の日本人人件費などのコストを考えると、

日本語研修や悩み相談を通じて外国人と良い関係を最初に作った方が安いと思います。コストをどう見るかが、課題かなと思っています。

──日本語研修を通じてよい人間関係を築けるのですか?

はい、象徴的な事例がありました。今回のフィリピン人4人と、同居していたベトナム人との間に誤解があり問題が起きかけていました。レン先生には「授業以上にメンタルケアを重視してほしい」と伝えてあり、4人と関係を築いてくれていました。ですので4人がそのことをレン先生に伝え、レン先生から私、私から門さんに悩みの存在を共有しました。その翌日、門さんは現地で解決してくださいました。私どもは悩みを把握はできるが解決はできない。一方、門さんは4人といつも話ができるわけではない。この連携を門さんとできたからこそ、日本語研修を通じて人間関係を構築できたのだと思います。

──実際に日本語研修を実施することで、コミュニケーションが改善されたことに対して、どういうふうに捉えていますか?

門:日本語研修を受けていただいた、だいいちさんと、他の会社さんを比べると、だいいちさんで働く実習生から上がってくる相談が、すごく少ないんです。それは、実習生とだいいちさんとで、ある程度解決ができているからだと思います。と同時に、だいいちさんから上がってくる相談もすごく少ない。

通常、外国人技能実習生を受け入れていただいた会社さんからは、「話しても全くわかっていない」とか、「目も合わせない」など、いろんな話が上がって来るものです。それが、だいいちさんでは、日本語研修を行った結果、あまり上がってこなくなった。そういった意味で効果はあったといえます。もちろん、複合的な要因があるので、この日本語研修だけの成果ではないにしろ、非常に評価されるべき効果はあったと思っています。

──イエローウイング協同組合様の方で、日本語研修以外のサポートなどの計画はありますでしょうか?

門:現時点では、かしこまったサポートは考えていませんが、フィリピン人の実習生から、前向きな要望が上がってきているので、それに対して、少しずつでも答えて行きたいと思っています。具体的には「日本語能力試験のN4を受けてみたい」と言うので、どのようにサポートできるかを検討しています。また、フィリピン人実習生たちは、日本の漫画がすごく好きで、興味があると言っているので、寮の方に提供させてもらい、日本の文化に触れる機会を作り、少しでも日本を好きになってくれたらと思っています。

小林:弊社でも、皆で焼肉を食べに行ったりしています。皆、焼肉はすごく喜びます。それに、これでもかというくらいよく食べます(笑)。いろんな国の子がいますが、日本語でみんな話していて、楽しそうにしていました。あと、遠軽町でも動きがあり、外国人労働者に定着してもらえるようにするため、外国人労働者のためのバスツアーも計画しています。それに参加させたいと考えています。

──やはり、日本語研修を導入することは、検討された方がいい?

門:外国人技能実習生の受け入れで、最初に起きるトラブルは、コミュニケーション不足に起因することがどうしても多いものです。そのため、受け入れの初期段階で、日本語研修を導入すると、問題も解決できる。初期段階でスムーズに実習がスタートします。実習生たちも、受入団体さんも、どちらも前向きに、実習に取り組めると思います。早期に日本語研修を導入するのが重要だと思います。

小林:私も、実習生が自分たちで勉強しているのは知っていましたが、日本語研修が導入できると知って実施させていただきました。そういう話がなかったら、今までと同じ流れになっていたと思います。

外国人労働者の立場になって考え、受け入れられる会社は強い

──外国人労働者への日本語研修は、今後、どのように取り組んで行こうと考えていますか。

加藤:私が自分のミッションとしたいと思っているのが、日本で外国人が日本的経営に携わるお手伝いをすること。ただの労働力ではない外国人従業員を見たいです。日本的経営とは、従業員が会社のことを信頼し、会社も従業員を信頼する。それぞれの人たちが、自分のやるべきこと以上のリーダーシップを発揮する組織だと考えています。それを実現する一つの手段が、日本語研修であり、サポートできる監理団体さんだと思います。イエローウイング協同組合さんと門さんの実行力が、今回の日本語研修が成功した要因だったと思います。

──研修期間が終わると、どうなるのですか?

小林:3年間の技能実習が終わると、彼女らはフィリピンに帰るかもしれませんが、その後の特定技能という、違う制度の中で残ってくれたら嬉しいなと思っています。もちろん、それは彼女たちの選択なので、無理強いはできません。でも、すごくいい子たちなので、私達としては長期で残ってもらえるよう環境を整えつつ、彼女たちが良ければ、受け入れを続けたいと思っています。

──小林様としては、今後、どのようにしたいとお考えですか?

小林:事業は、今よりも良くしたいと思っています。日本人を確保できない分、外国人に頼らざるを得ない。ならば日本の制度に限界はありつつも、制度を上手く利用しながら、外国人労働者の良い立ち位置を作っていけたらと思っています。

労働不足だとか外国人労働者に頼ると言うと、ネガティブな表現に聞こえますが、ポジティブに捉え、外国人労働者に働いてもらうことで、業界をリードできればと考えています。

門:外国人労働者の立場になって考え、受け入れられる会社さんは強いと思いますし、今後、外国人労働者がたくさん必要となる世界観では、それが強みになって行くと思います。

──ありがとうございました。

(後編へ続く)