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Zuittでは、外国人技能実習生共同受入事業を推進する、イエローウイング協同組合様からの依頼で、北海道紋別郡遠軽町で水産物の加工を営む、だいいち様に対し、だいいち様で働くフィリピン人技能実習生に向けての日本語研修を提供しました。
イエローウイング協同組合の門洸司様、だいいちの小林美知様、Zuittの加藤代表に日本語研修の重要性や効果などを伺いました。
(インタビュー・大橋博之)
労働力は外国人に頼らざるを得ないのが現状
──だいいち様は、どのような事業をされているのですか?
小林:弊社は北海道紋別郡遠軽町で、水産物の加工を営んでおります。扱っているのは、ホタテの貝柱とタコ製品。この2本柱で事業を行っています。遠軽町はオホーツク海のそばにあり、湖としては日本全国で3番目に大きいサロマ湖が近くにあります。このオホーツク海沿岸は、世界有数のホタテ生産地として知られています。
──従業員は何名でしょうか?
小林:全従業員が57名で、日本人が18名、他には中国人、ベトナム人、インドネシア人、フィリピン人が働いてくれています。フィリピン人は4名で20代前半。全員女性です。みな若くて明るくてすごくいい子たちです。
──フィリピン人を雇用されたのは、どうしてなのですか?
小林:日本人が集まらないからです。20年ほど前に中国人技能実習生を受け入れましたが、中国人も難しくなり、違う国も考える中、フィリピン人実習生の評判が良いと聞き、フィリピンの子はいないかと、イエローウイング協同組合さんに相談させていただきました。
──イエローウイング協同組合様の事業内容を教えていただけますでしょうか?
門:イエローウイング協同組合は、2019年に設立した、事業協同組合です。事務所を北海道の札幌と苫小牧に置き、だいいちさんのような、組合員になっていただいている会社さんたちの経済向上サポートを大きな目標とし、日々業務を行っております。中でも業務の約95%は、外国人技能実習生共同受入事業と特定技能外国人支援事業です。
──フィリピンの方々は、日本で働きたいという希望があったということですね。
門:フィリピンの送出し機関さんに、日本で働きたい子たちを募集していただき、何人か集まった中で、だいいちさんにマッチングしそうな人材を選ばせていただきました。特に漁業や水産業に関わっていたわけでもなく、未経験ですが、賃金、治安、労務環境、衛生面を総合的に考えて日本を選んだ子たちです。
──だいいち様では、労働力が確保できないことが大きな課題だったのですね。
小林:遠軽町の人口は町自体で2万人を切っている状況で、若い子たちは進学や就職で町を離れる状態が続いています。そのため、労働力は外国人に頼らざるを得ないのが現状です。これは、遠軽町に限ったことではなく、どこの地方でも同じだと思います。
門:日本全体で人口が減っているのと同時に、20歳から65歳くらいまでの労働人口も減少しています。今の日本の経済をある程度維持して行くためには、外国人の労働力が必要不可欠になっています。当組合では、そのことを皆さんに認識していただき、外国人技能実習生を活用していただけるよう、サポートしています。
3年間もある実習期間のことを考えるなら、無駄な投資ではない
──だいいち様に日本語研修を提案したとのことですが、その理由を教えてください。
門:外国人技能実習生を受け入れる受入団体さんも実習生も、言語に対して不安を抱くものです。受け入れる方に対してのサポートの意味合いも含め、少しでも実習生たちの日本語能力が上がると、双方の不安の解消になると考え、日本語研修を提案させていただきました。
──フィリピン人技能実習生の方々に日本語研修を実施することにした、その意図を教えていただけますでしょうか?
小林:今まで、外国人技能実習生を受け入れてきましたが、日本語が上達している子たちを見てみると、自分で授業料を払い、オンライン講習を受けていました。しかし1人で勉強するのは限界があります。イエローウイング協同組合さんから日本語研修の提案をいただいたとき、魅力を引かれ、導入することにしました。
──外国人技能実習生の方々はなぜ、日本語を上達したいと考えているのですか?
小林:将来的に、通訳の仕事をしたいだとか、企業に入社したい、企業の中で通訳の仕事をしたい、という子は多いですね。もっと上達して、母国の子たちに日本語を教える先生になりたいという子もいます。
──外国人技能実習生の方々が、日本語ができないと、どのようなことで困りますか?
小林:日本語が全く通じない子はいますが、そういう子たちには、同国で日本語がわかる子を介して指示をするため、どうしても時間がかかってしまいます。それに、指示しても分かってもらえないこともあるので、同じことしかさせてあげられない。その子の仕事の力量が上がらないとなってしまいます。
──すると、その人のモチベーションも下がって行く。「それは、あなたが勉強していないからでしょ」というのも酷という話ですね。
小林:そうですね。優越をつけたくはないけれど、どうしても扱いに差が出てしまう。日本語が通じる子に頼らざるを得ない部分が出てきます。
──イエローウイング協同組合様から日本語研修の提案をされたとき、興味を引かれたとのことですが、どのように行おうと考えたのですか?
小林:日本語研修を受けさせるなら、雇用直後の初期の段階で全員で取り組んだ方が、確実に吸収するんじゃないかなと思いました。やはり、研修して仕事をして、それから寮に帰って勉強するとなると、疲れていますし、「今日はいいや」と甘えが出てしまいます。そして、そのうち勉強しなくなってしまい、やがて「同じ実習生の誰かひとりが日本語ができれば通訳してもらおう」と考えるようになります。
私には、外国人技能実習生の子たちの、通訳の仕事をしたい、日本語を教える先生になりたいという夢を応援したいという気持ちはあります。なので、半強制的にやってもらおうと考えました。もちろん、本人たちにすれば大変だったとは思いますが・・・。
──研修費用を負担するわけですよね。
小林:そうですね。でも、3年間もある実習期間のことを考えるなら、無駄な投資ではないと思っていました。
──外国人技能実習生たちは、労働意欲や勉強意欲が高いものなのですか?
門:労働意欲は高いですね。目的意識がしっかりしていて、日本に行ってお金を稼ぎたいという強い気持ちもあります。ただ、学習意欲が高いかは、個人差があります。日本語研修では、その個人差をいかに高い方に合わせて行くかが重要です。若い子たちなので、適切なサポートさえすれば、勉強意欲は上がって行くということは、体感としてはあります。しかし、それも受入団体さんの気持ちひとつ。外国人技能実習生たちと一番長く接する受入団体さんが、どのようにリードするかが大きいと思います。
3か月でも日本語は飛躍的に伸びる
──加藤さんは、イエローウイング協同組合様からの依頼で、だいいち様で働くフィリピン人技能実習生に向けての日本語研修を行ったわけですが、どのようなプログラムを提供しようと考えたのでしょうか?
加藤:ただ単に研修を届けるという話ではないと思いました。
どの語学でも初級者では最初に口を開くのが最も大変です。日本語が話せないと思い込み、問題を抱えていても誰にも言えなくて、問題が大きくなって破裂する。これが一番厄介なパターンだと門様からお伺いし、防ぐような日本語研修にしようと考えました。
──なるほど。
加藤:次に、どの日本語レベルからスタートできるかを考えました。外国人技能実習生は、少なくとも日本語能力試験(JLPT)で最も優しいN5相当で日本に来ることが前提とされています。しかし、どこの送出し機関さんから来ているか次第で、実態としては日本語能力にはバラつきがあります。ですのでまず、会話練習のかたわら、N5の復習テストと補習を行い、レベルを確認し揃えました。
※日本語能力試験(JLPT)にはN1、N2、N3、N4、N5の5つのレベルがあり、最も優しいレベルがN5で、難しいレベルがN1。
──難しいのはどういうことでしょうか?
加藤:いくつかあります。一つは、外国人技能実習生たちが日本語研修に出席してくれるかです。仕事の後の夜に2時間勉強するのは日本人でも嫌ですが、やってもらわなければいけません。そして、今回、受講生の悩みを聞くことを、フィリピン人のレン先生にお願いしました。
整理すると4つの点に配慮しました。スタート地点をそろえられるか、そもそも出席してくれるか、補習や会話能力は想定通り向上するか、悩み相談が機能するか、です。
──具体的な実施方法を教えてください。
加藤:2024年5月末に始めて8月半ばで終わる、3か月弱の日本語学習プログラムです。会話の授業が週2回、補習の授業が週1回、それぞれ2時間ずつ、全てオンラインで講師が指導を行います。夜間に、だいいちさんの寮の自室で受けてもらいました。
会話の授業は日本人の先生が、補習の授業はフィリピン人のレン先生が行い、レン先生には補習以上に受講生の悩みを聞くことを優先するよう伝えました。
──どのようなカリキュラムなのですか?
加藤:会話の授業で目標としていたのはA1.2レベル「理解ある相手と最低限やりとりできる」です。主にはパターンプラクティス(文型練習)を行いました。まず1つ文章パターン(型)を習得し、その文型を反復・応用しながら別の表現に変えて行き、さまざまな表現を使えるようにする方法を用います。通常、1対1で行うものですが、講師1対生徒4で行うことによって、他の人が恥ずかしがる様子をみたり、人に聞かれることに慣れたりするなど、想定外のプラスの効果がありました。
また、研修前後で同じ内容のテストとアンケートを行いました。補習授業ではテストで失点した文法項目を中心に行いました。
──座学ではなく、話すことを重視したカリキュラムなんですね。
加藤:そうです。補習授業で文法語彙を再度理解し、会話授業で練習し、仕事の現場で実践する。このサイクルで行いました。
──日本語は難しいと言われています。3か月で上達するものなのでしょうか?
加藤:3か月間で相当上達しました。当初4人中1名はN5の水準に達していませんでした。2人はN5にギリギリ合格できるレベルでしたが、このレベルでは基礎の積み上げが不十分で、N4を学習してもN4合格は厳しい場合があります。しかし研修後は、全員がN5で満点に近い水準になりました。このまま学習を続ければN4合格の可能性は高いです。
また、会話力もばらつきがありましたが、研修後は全員が目標のA1.2に到達しました。
もちろん、弊社らの日本語研修だけの成果ではありません。業務内外で日本語を使う機会は多いでしょう。ふんだんに日本語に囲まれている人が、ちゃんとインプット・アウトプットすれば、3か月でも日本語は飛躍的に伸びるということかと思います。
疲れているのに一生懸命に頑張ってくれた
──門様も授業は見られましたか?
門:何度か授業を拝見させていただき、どのように勉強をされているのかを見させてもらいました。私個人としてはすごく満足できる日本語研修でした。内容もそうですし、結果も伴っていたので、高いレベルの日本語研修だったと思っています。
やはり、フィリピンから日本へと、今までと環境の違う国に来ると、いろいろなことが違うので、さまざまなストレスがあり、日常生活を送るだけでもすごく疲れます。その上で実習を行わなければならない。しかも、実習は体を使うことも多いので、体力的にも大変です。なのに、夜、時間を捻出して、意欲的に一生懸命に頑張っている。疲れている様子もありつつも、すごく頑張ってくれる子たちで、感心していました。
──小林様は、いかがでしたか?
小林:私は、授業に参加はしていませんが、実習生に「どうだった?」と、いろいろ話を聞いていました。「楽しかった。でも、眠かったので、途中で寝ちゃった」みたいなことを言っていましたが、学習することに対しては、すごく意欲的で、「今日も頑張ります」と言う姿を微笑ましく見ていました。取り組ませて、非常に良かったと思っています。
──どういうところが、楽しかったと?
小林:講師のレン先生がすごく楽しい先生だったそうです。
──レン先生は補習授業を担当された方ですね。どういう方なのですか?
加藤:フィリピン人男性で技能実習生の経験があり、フィリピンに戻ってから大手の学校で日本語の先生になったという人です。技能実習生の気持ちがよく分かると思い、今回授業をお願いしました。レン先生も、4人の若いフィリピン人女性に教えるとあってとても楽しそうに教えており、先生の奥様からお叱りを受けないかと個人的に心配しておりました(笑)
小林:そんな、レン先生から学ぶことも多かったのだと思います。日本語に関してもだし、レン先生が日本で過ごした体験談も織り交ぜて話してくださったので、それが彼女らの励みにもなったのだと感じています。