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Zuittでは、フィリピンに生産拠点を持ち事業を発展させている大東精密様と、そのフィリピン子会社に対し、フィリピン人従業向けの日本語研修を提供しました。
大東精密株式会社 代表取締役・齋藤裕一様に外国人労働者に対する考え方や日本語研修の重要性、効果などを伺いました。
(インタビュー・大橋博之)
フィリピンの工場が主力に発展
──大東精密様は、どのような事業をされているのですか?
齋藤:弊社は宮城県において、1977年に設立した、射出成形精密機構部品の製造を事業とする会社です。主にプラスチック・金属製の電機・電子部品の製造・組立、モールド金型の設計・製作、プラスチック製光学素子の設計・製造を手がけています。
特に精密なものを得意としており、自動車部品、医療用カメラレンズ、家電部品などを製造し、お客様に供給しています。
──特徴はどのようなところでしょうか?
齋藤:主力は、自動車のハンドルとハンドル周りの部品。例えばオーディオやエアコンのスイッチが並ぶインストルメントパネル(インパネ)。また、最近生産量が増加しているものに、スマートフォン用のパーツがあります。
──御社が選ばれている理由にはどのようなことがあるのでしょうか?
齋藤:手前味噌になってしまいますが、製造している自動車のハンドルの部品や医療用カメラレンズは、不具合が起こると人命に関わります。そういったパーツをご用命いただけているのは、ひとえに不良品を出さない、品質管理ができているからです。それで継続的に発注いただけているのだと自認しております。
──1994年にフィリピンのセブ島で「DAITO PRECISIONS INC. (DPI)」をスタートさせ、2001年には同じくフィリピンのルソン島バタンガス州に「JAPLAS INJECTION MOULDERS CORP. (JIMC)」を開設しています。フィリピンに拠点を持つようになったのはどうしてなのですか?
齋藤:きっかけは単純で、今もお取引があるクライアントが当時、フィリピンのセブ島での生産を増やすので、弊社に対して「海外進出しては」と声をかけていただいたからです。
──フィリピンの工場の位置づけをどうお考えですか?
齋藤:工場を開設した当初は小規模な拠点でしたが、2000年以降、日本各社が量産拠点を海外、特にASEANに移したこともあり、今となっては海外工場はものづくりの中心となっています。従業員数も日本本社が30名ほどに対し、DPI(セブ工場)は約200名、JIMC(バタンガス工場)は約400名となっています(2024年10月現在)。
──フィリピンが主力になっているのですね。
齋藤:弊社が納めている製品は、ほとんどがフィリピン国内にある日系企業向けのものです。自動車部品と電子部品で売上全体の8割ちかくを占めています。
──齋藤様はフィリピンへ頻繁に行かれているのだとか。
齋藤:そうですね。フィリピンの方が圧倒的に生産量が多い分、トラブルもフィリピンの方が多く、いろいろなところに頭を下げに行くことが増えました(笑)。
フィリピンから従業員を日本に呼ぶことで離職対策に
──フィリピン工場で働く従業員を日本に呼び、日本で働いてもらっている。どうしてなのですか?
齋藤:90年代からフィリピン従業員を日本の宮城工場に呼ぶ取り組みは行っていました。しかし、その後の30年間で位置づけは徐々に変わってきています。弊社が大事にしている日本品質に対する考え方を学んでもらうことが最初の目的でした。次の10年間は、日本国内の人材不足からエンジニアが採用できないため、フィリピンの工場で育ってきた優秀なエンジニアの従業員に助けてもらおう、日本で活躍してもらいたいという色合いが濃くなってきました。直近10年間は、日本で学び、活躍してもらうことに加えて、離職の抑止としてです。実はこの離職の抑止目的のウェイトが徐々に大きくなってきています。
──フィリピン人従業員の離職が多いということですね。
齋藤:フィリピン従業員の離職率は正直、日本の従業員よりも高いのが実情です。ただし、これは弊社だけでなく、シンクタンクが公表した各国の離職率を見てもフィリピンは日本より高いことが分かります。
なぜ、辞めるのかと聞き取りを行うと、一番の理由は給料でした。フィリピンにある日系企業より欧米企業の方が給料がいいから、近郊にある別の国の企業に移ると。それからここ10~15年ぐらいは、みんながスマートフォンを持ち世界中の情報にアクセスできるようになったことで、海外に目が向くようになり、OFWと呼ばれる海外出稼ぎ労働者として、フィリピン国外で働くようになりました。その方が給料は何倍も違うのだそうです。
弊社では、フィリピンから日本に来てもらっている従業員には、日本人が働くのと同額の給料を支給しています。会社を辞めなくとも、日本に来て勤務すれば、日本の給料は払います。たくさん稼げますと従業員へアピールすることで、離職対策をしています。
──日本で働きたいフィリピン人は多いのですか?
齋藤:多いですね。一番の理由はやはり給料です。フィリピン人がSNSで「日本に行くとこれだけ稼げるぞ」と拡散しています。それを見たフィリピン人が日本で働きたいと思うようになります。
また、弊社が工場を置いている工業団地には様々な国籍の企業がありますが、その中でも日本企業を従業員たちが選んでくれた理由は日本のことが好きだからです。最近だとアニメの影響が強く、アニメに出ていた風景を見てみたいといった、日本に対する憧れをみんな持ってくれているのが理由です。
日本語を使う機会を提供できていないのは課題
──フィリピンから日本に呼ぶ、具体的な施策を教えてください。
齋藤:2パターンあります。一つは、日本駐在員。フィリピンの工場からエンジニアとして来てもらい、最短1年、勤務してもらう。会社と従業員の双方が良ければ1年ずつ更新していくパターン。もう一つが、研修生として3か月ローテーションで来てもらう。この、日本駐在員と研修生の両輪で取り組んでいます。
──1回、何名ぐらいを日本に呼ぶのですか?
齋藤:状況にもよりますが、日本駐在員は現在、4名がおり、研修生は3か月ごと、フィリピンに2つある工場の両方を合わせて1度に7~8名を呼んでいます。
──問題になるのが、みんな喜んで来るのだけれど、帰ったら、箔がついたといって辞めてしまう。そういう心配はありませんか?
齋藤:他社さんから、「“私は日本のヘッドクォーターから呼んでもらえるぐらい優秀な人材です”とアピールして転職する人が多い」とよく聞きます。けれども、弊社ではそのようなことはありません。とはいえ、日本で活躍し、フィリピンに帰国した後も活躍してほしいという想いはあります。日本で箔をつけてもらって、いい給料で転職でき、自己実現ができるのなら、それもいい。踏み台にしてもらうのも悪くないと考えています。
──すごいですね。
齋藤:踏み台にすらなれない会社だとしたら、会社としての価値はないと私自身は思っています。
──そのような考え方が、エンジニアを引き付けている要素なのですね。
齋藤:そうだと嬉しいです(笑)。
──どのような課題を持っていらっしゃるでしょうか?
齋藤:会社としての課題になりますが、研修生に対しては、日本とフィリピンの文化や生活習慣が違うこともあるため、「日本ではこれをやっては駄目です」としっかりと教えます。そのため、当人たちはあまり出歩かないようにしよう、近所とのトラブルを避けようと気を使ってくれます。それは嬉しいのですが、研修生の寮が会社の敷地内にあり、そこだけで生活が完結することもあって、外に出て日本語を使う機会を会社として作ってあげづらい。せっかく、日本に来ているのだから、例えば、交通機関を使ってみるとか、レストランに行って注文してみるとか、そういった機会提供ができていないのは、会社側の課題として感じているところです。
オンラインでの日本語研修は魅力的だった
──フィリピン従業員に日本語研修を実施することにした。その理由は何なのでしょうか?
齋藤:日系企業に入社するフィリピン人は日本のことが好きな人が圧倒的に多いので、日本の言葉を覚えたいというニーズが高く、それに応えたいと思ったのが理由の一つでした。
なぜ、今までやれなかったのかと言うと、製造業は、サービス業に比べると、言葉を使う機会は多くないからです。コミュニケーションを取ることは仕事を進めていく上で大事ですが、我々はどうしても物に向き合う時間の方が長くなる。特定の業務に対する単語が理解できれば、何とかコミュニケーションが取れるということがあります。
しかし、日本人従業員は英語やフィリピンの言語であるタガログ語は得意ではないので、フィリピン人従業員が日本語を覚えてくれるとコミュニケーションが取りやすくなり、一気にコミュニケーションハードルが下がると考えたのも、理由の一つでした。
──今回、日本語研修を導入することにした、きっかけは何かあったのでしょうか?
齋藤:日本語の勉強は今から5年くらい前、弊社の工場があるフィリピンのセブ島は国際都市なので、現地の人に日本語を教える学校はいくつかあり、そこから講師を派遣してもらい、希望者に福利厚生の一環として日本語教室を開催したことがあります。
好評で、もっとやってほしいという声は多かったのですが、当時はオンラインの授業はまだなく、来てもらうとなると週に1回1時間が限界。それでは趣味の延長というか、「こんにちは」「さようなら」を覚える程度。初歩的な会話にすら至りませんでした。
従業員からもっと突っ込んで日本語を覚えたいという熱はあったところに、Zuittさんが提供する日本語研修を知り、お願いすることにしました。
──導入の決め手は何だったのでしょうか?
齋藤:Zuittさんの日本語研修はオンラインで実施すること。あと、圧倒的な学習量を確保していただけること。これは、セブ島で講師をお願いしたときに痛感したのが、語学学習は量が大事だということだったからです。週に1回来てもらうだけでは、趣味としてはよいのですが、仕事に結びつく成果は出ません。それと費用が手ごろ。中小企業でもこの金額だったらみんなに受けさせられるという価格だった。その3点に魅力がありました。
──講師のいるクラス型授業で、200時間のコースが3万円を切るというのは日本ではもちろん、フィリピンでも最安値ですよね
齋藤:価格はとてもありがたいです。
日本語を使おうとする前向きさが仕事に対する前向きさに繋がる
──今回、日本語研修を実施していかがでしたでしょうか?
齋藤:日本語研修は平日の毎日2時間というハードなもので、日本駐在員と日本駐在員候補生に対して行いました。参加させたことで、「腰を据えて日本語を学ぼう」と、意識が変わったと感じています。忙しい中、プライベートの時間を割いて、時間を捻出して取り組むため、「これだけ時間を投下したのだから、何か得るものがないと駄目だ」といった意識があり、日本語をもっと学ぼう、日本語の資格を取ろうと意欲は高まったと、見ていて感じました。
──研修後、受けたフィリピン従業員を見ていていかがでしょうか。
齋藤:コミュニケーションを取る回数が増え、かつ円滑になりました。フィリピンの従業員は日本が好きで、もっと日本のことを知りたいと考えています。日本語を話せるようになることで、もっと日本人と仲良くなりたい、日本を知りたいと積極的に会話をするようになったのだと考えています。もちろん、コミュニケーションが円滑になると、仕事でのトラブルも減りますが、それは副次的な効果。日本に対する理解が深まることがメリットだと考えています。
──それは大きなメリットですね。
齋藤:他にも予想していなかったメリットがありました。それは、仕事の中でチャンスがあれば日本語を使おうとする、その前向きさが仕事に対する前向きさにも繋がっていると感じています。このことは日本語研修に参加させる前には予想していませんでした。
──他社さんが導入しない理由は何だとお考えですか?
齋藤:多分、面倒だからだと思います。新しいことをやるのは面倒なものです。今はスマートフォンのアプリで会話が翻訳できるツールもあります。弊社でも活用していますが、それがあれば事足りる。今やらなくてもとなっているのだと思います。
──スマホの翻訳では伝わらないことがある?
齋藤:製造業の現場だと正直、スマホの翻訳機能による会話でも日常業務は回すことができます。それより、フィリピン従業員の、日本のことを知りたい、日本人と交流したいといった想いに寄り添うべきだと思っています。
言葉が通じなくて、フィリピン人と日本人に分かれてしまうといったことも当初はありました。が、コミュニケーションが取れるようになると、日本人従業員も「フィリピン人って思っていたのと違うな」となりますし、話しかけてこられると、「私のことを知ろうとしてくれている」「自分から歩み寄ろうとしてくれている」となります。
──ありがとうございました。
日本は人口が減少し、外国人材を活用しなければならなくなってきています。大東精密様が先進的なのは、フィリピンの子会社から始まり日本の本社につながる人材パイプラインをつくりあげておられることです。しかも、研修期間を終えフィリピンに帰国した従業員もほとんど転職しない。それは双方で信頼関係が築かれているからこそ。
メディカルの最先端機器や自動車といった、人命に関わるものを量産しても不良品は出さない。高度な技術を持ち、かつ、外国人も活用できる。この二つを兼ね備えている企業はなかなかないと思います。
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